「Fake」

                           みやうちコウ

登場人物       役者名

坂井直斗    みやうちコウ

坂井瑞稀

坂井彩花

浅倉遼介

香山幸洋

関 和馬

  忘年会練習1

     警察署内

     関と香山がやってくる。

二人  どうも~! コロボックルで~す!

関   一度見たら。

香山  忘れられない。

二人  最高のエンターテインメントをお届けしま~す。

関   僕がノッポの関で。

香山  私がコロの香山で~す。

二人  よろしくお願いしま~す。

関   はい。いきなりですが、皆さんは今年のクリスマスをどう過ごされますか?

    クリスマスはやっぱり恋人と過ごしたいですよね――

香山  なあ。

関   僕もね。去年はそういう気持ちでしたね。恋人もいなかったので――

香山  ちょっと、俺の話を聞け!

関   うわ! な、なんすか。

香山  関よ。

関   はい。

香山  コロボックルってコンビ名やめないか?

関   え? でも香山さんがそれがいいって。

香山  それにコロの香山ってなんだよ。俺のことバカにしてるのか!

関   してませんよ。俺だって好きでやってるんじゃないんだから、多少のことは我慢    して下さい。

香山  いやだ。

     遼介やってくる。

遼介  お疲れ様です。〔香山〕おう。〔関〕お疲れ。

遼介  どうです? 進んでます?

関   全然。

香山  さっぱり。

遼介  まだ忘年会まで日にちあるから、ちょっとずつやってきましょ。

香山  浅倉や。

遼介  はい。

香山  コンビ解消するから、俺と組まないか?

遼介  どうしたんです? ケンカでもしました?

香山  こいつ、やる気ないんだよな。

関   お笑いなんて平民がやればいいんだ。

遼介  それは言い過ぎだと思うけど。

香山  俺のことを言ってるのか。関。

関   さあ。

香山  そいや、坂井のやつはどうした? あいつが一番先にあがってたと思ったんだが。

遼介  直斗さんなら、道場で汗流してから来るって言ってましたよ。

香山  若いってのはいいねぇ。仕事に対しての熱意が違う。例外もいるけどな。(関を    見る)

遼介  俺も合流したんで、歌の練習してもいいですか?

香山  歌は乗り気しないな。演歌じゃないだろ?

遼介  曲も一緒に決めたじゃないですか。

香山  知ってるよ。だからやだって。北島三郎がいいよ。

遼介  関は歌でいいんだろ。

関   ああ。

遼介  香山さん、お願いします。

香山  さぶちゃんじゃダメ?

遼介  全然かわいくないですよ。

香山  さぶちゃんがいい~!

遼介  適当に声を出すだけでいいですから。じゃあ、やります。

     遼介が手をたたく。

     一同、歌い出す。

     直斗やってくる。

     遼介と相づちを打ち合い、列に参加し、声出す。

     直斗が音を間違え、一同こける。

          一同に野次られる。

直斗  ごめんごめん。歌って苦手なんだ。

香山  坂井よ、歌の心得って知ってるか?

直斗  わかりません。

香山  じゃあ、俺が教えてやる。

関   香山さんはコブシを効かせるだけ。

香山  大きく息を吸って、あ~~(超ビブラート)。わかるか?

直斗  あ~~~(真似する)。

香山  なんか違うな。大きく……息を……吸って――。くっせぇ!

直斗  鼻で息しない方がいいかもしれません。さっきまで道場に居たんで。

香山  剣道って臭いから嫌だ。

関   なんでもいいが、歌わないんですか。

遼介  関、よく止めた。

関   ふん。

遼介  気を取り直して。(一同整列)並んで下さい。(時計を見る)もう七時か――。

香山  え? 七時?

遼介  はい。

香山  (片付けを始める)

直斗  香山さん、デートの約束ですか?

香山  (格好つけて)逢いたい人がいる。

関   テレビです。

直斗  え?

関   見たいテレビがあるんですよ。

直斗  そっか。俺の携帯ワンセグ見れますよ。

香山  そんなボロボロの画面が見られるか! うちのハイビジョンじゃないと。お先に    ~!

     香山去る。

直斗  騒がしい人だぁ。

関   どうする? 三人になったぞ。

遼介  仕方ないな。今日は解散して、また明日ってことで。〔関〕(頷く)。〔直斗〕う    っす。

     一同、片付け始める。

関   じゃあ、お先。 〔直斗〕ああ。 〔遼介〕お疲れ。

     関去る。

遼介  直斗さん。歌のことなんですけど。

直斗  ん、どうした?

遼介  言いにくいんですけど、もっと練習しないと。

直斗  そうだな。あれじゃまずいよな。

遼介  そうです。まずいんです。今日帰ったら練習してもらえますか?

直斗  いいよ。

遼介  よし! そうだ! 姉さんに手伝ってもらえば。

直斗  瑞稀に?

遼介  姉さんあれでもピアノ弾けるじゃないですか。だから、きっとうまく教えてくれ    ますよ。

直斗  わかった。頼んでみるよ。

遼介  頑張って下さい! お先に!

     遼介去る。

     ダンスシーン

  帰宅

     直斗帰宅する。

     彩花がいる。彩花は音楽を聴いている。

直斗  ただいま~。(彩花を揺らす)ただいま!

彩花  (イヤホンを外し)びっくりしたぁ。

直斗  耳がいかれちまうぞ。

彩花  おかえり。

直斗  ただいま。またお前は人の家に。

彩花  (イヤホンをはめる)

直斗  瑞稀は?

彩花  ……

直斗  瑞稀は!

彩花  瑞稀ちゃん? 出版社に行くって言ってた。

直斗  そう。

彩花  お兄ちゃん、新曲聞く?

直斗  いいよ。お前の声聞いてもさ。

彩花  まずは聞いてみて。瑞稀ちゃんが帰って来るまで。

直斗  ああ。(イヤホンを耳にはめる)

     直斗音楽を聴く。

     彩花は別のことをしだす。

     瑞稀やってくる。

瑞稀  ただいまぁ。寒い~。

彩花  お帰り。ちゃんと留守番してたよ。

瑞稀  ありがと。あっ、ナオ帰ってたんだ。

直斗  ……

彩花  新曲聞いてる。

瑞稀  そっか。(直斗に近づき)ただいま!

直斗  おかえり~。

瑞稀  ナオも同時?

直斗  まあ、そんなとこ。

瑞稀  ふ~ん。

直斗  今日は出版社に行ってたんだって?

瑞稀  うん、編集者の人と打ち合わせをね。

直斗  書けそう?

瑞稀  どうかな? 考え中。

直斗  考えすぎて、夕飯作るの忘れんなよ。

瑞稀  明日あたりはレトルトかも。

彩花  お兄ちゃん。私の曲。

直斗  最初のサビくらいまでしか聞いてないけど。

彩花  それでもいいから、感想は?

直斗  彩花っぽくない。

彩花  どういうこと?

直斗  瑞稀もこれ聞いた?

瑞稀  うん。

直斗  そう思わない?

瑞稀  彩花ちゃんの、言葉遣いの悪さと、がさつな所が全くない感じ。

彩花  それは何? バカにしてるの?

瑞稀  そういうオープンな所がいいとこなのに残念だなって。

彩花  どうせ作られたキャラですよ。

直斗  でも売れてるんだろ。あんまり芸能関係のことは詳しくないけど。

彩花  売れてる? 私のこと知らないのは、うちのお兄様くらい。

直斗  そうなの?

瑞稀  私の読者の百倍くらい。

直斗  そうなのか。

彩花  ドラマ見ないの?

直斗  見るのは、ニュースと踊る大警察二十四時くらいだ。

彩花  今度日曜ナイトドラマに主演で出るんだけどな。

直斗  おお! それってすごいんじゃないか?

彩花  今更? あらすじ話してあげるから、今度見てよ。

     彩花話し始める。直斗はそれを聞く。

     電話がかかってくる。瑞稀とる。

瑞稀  はい。

遼介  もしもし。俺だけど。

瑞稀  遼介君、ご用はなんですか?

遼介  直斗さん、もう帰ってる?

瑞稀  いるけど、直斗に用?

遼介  いや、どちらかというと姉さんに。直斗さんからあの話聞いた?

瑞稀  彩花ちゃんの新曲?

遼介  そうじゃないんだけど。

瑞稀  何? 私と直斗もまだ帰ってきたばっかりで、話しをする余裕なんてなかったん    ですけど。

遼介  ごめん。

瑞稀  それで。

遼介  実は署内の忘年会で――(直斗と遼介の電話が鳴る)ごめん、キャッチが入った    からまたかける!

瑞稀  え? ちょっと!

〔遼介 直斗〕(電話をとる)はい、もしもし。はい。はい。すぐ向かいます。

直斗  ごめん、彩花、瑞稀。呼び出しかかったから行くわ。

彩花  絶対見てよ。

直斗  おう。

瑞稀  ごはんは?

直斗  先に食べてていいや。じゃ!

     直斗去る。

瑞稀  遼介も呼び出しか。

彩花  そろそろ帰ろう。

瑞稀  食べてく?

彩花  え、いや、やめとく。

瑞稀  昨日作ったカレーがたくさんあるから。

彩花  う……。カレーだけは勘弁。

瑞稀  色々入ってるから、おいしいよ。にんじんとかタマネギとか。

彩花  また切らずにまるごと入れた?

瑞稀  素材の良さをそのまま生かすのがプロのワザってやつでしょ。

彩花  だから嫌なんだ。

瑞稀  何?

彩花  ううん。け、警察の妻って大変だね。突然出かけちゃったし。

瑞稀  慣れた。

彩花  これじゃドラマなんて見れないか。

瑞稀  そこまで送ってくよ。

     瑞稀、彩花去る。

 特別訓練開始

     直斗、遼介がいる。

遼介  飯食いました?

直斗  腹ぺこ。

遼介  姉さんの手料理ってうまいですか?

直斗  うん。早く仕事終わらせて、食べたいな。

遼介  別に嘘言わなくてもいいですよ。

直斗  姉さんの手料理が恋しいのか。

遼介  そんなわけないです。

直斗  シスコンだなぁ。遼介は。

遼介  直斗さんは色々とオンチなんですね……

直斗  遼介。聞こえてるぞ。

遼介  いや、すみません!

     香山から電話かかってくる。

直斗  はい、わかりました。以降は無線との併用で。(電話切る)香山さんからだ。こ    っちは俺たち二人で、香山さんは別行動だ。

遼介  関は?

直斗  俺たち三人だけだ。あいつには連絡がつかないらしい。

遼介  どうせ、どっかで遊んでるんですよ。

直斗  かもな。

遼介  捜査の確認をしましょう。

直斗  ああ。

遼介  本日十七時三十分、ファクシミリマート岬通り店にて強盗事件発生。負傷者なし。    被疑者は売上金30万円を奪って逃走した模様。身長は170㎝前後。上下黒色    の着衣。

直斗  道路は封鎖したのか?

遼介  はい、ですが伝達のミスにより丸山通りのコンビニ付近一帯十㎞が封鎖されてる    ようです。

直斗  何やってんだ。全然違うじゃないか。

遼介  もう逃げてる可能性もあると思うんですが。

直斗  まだだな。警察を警戒しながら、そう長い距離は移動できないさ。

遼介  しかし、こちらへの連絡は迅速でしたね。

直斗  うん? そうか……。(無線で)香山さん。やはり、俺の作戦で。

遼介  どうしたんですか?

直斗  何となくだが、目星がついた。

遼介  直斗さんの勘ですか。

直斗  俺の勘は当たるだろ。

遼介  はい。俺たちはどこに行くんですか?

直斗  ついて来い。

     二人歩き出す。

遼介  俺と直斗さんは二人で繁華街を歩いた。てっきり、目的地まで走って行くのかと    思ったけど、そうじゃなかった。直斗さんはかなり余裕そうだった。俺の心臓の    鼓動は緊張で次第に早くなっていく。にも関わらず、直斗さんの歩くスピードは    反対に遅くなっていく。

    直斗さんに黙ってついていくと、ある店の前で止まった。そこは小さな喫茶店だ    った。

直斗  ここでいいか。

遼介  ここに入るんですか? 犯人を追わなくていいんですか?

直斗  大丈~夫。まかせなさい。

     直、遼店に入る。

遼介  直斗さん。ここへ来た目的はなんですか? まさか紅茶飲みたいとか。

直斗  喫茶店で紅茶注文しちゃいけない?

遼介  え、と。だって。

直斗  すみません! 紅茶二つ。

遼介  僕ら捜査中なんですよ。

直斗  わかってるって。

遼介  わかってるように見えないです。歌のことだって姉さんに話してないし。

直斗  歌? ああ、忘年会の。時間なかったからさ。

遼介  自覚して下さいよ。自分の歌唱力。

直斗  すいません円。

遼介  緊張感ないですね。

直斗  リラックスは大事だよ。

     店員紅茶もってくる。紅茶置いて去る。

直斗  どうも。(飲む)うん、うまい。でもちょっと刺激が足りないからタバスコ入れ    よ。

遼介  直斗さん、やっぱり味オンチなんですね。

直斗  そうでもないさ。

     別の客(関)が入ってくる。

     適当な場所に座り、紅茶を注文する。店員がやってくる。

     直斗はタバスコをたくさん入れる。

遼介  うえ。そんなの宇宙人しか飲めませんよ。

直斗  アイアムエイリアン! ……ドフレン。

遼介  やっぱり姉さんの手料理なんか食べ続けたから、味覚おかしくなったんじゃない    ですか。

直斗  今度、瑞希に言ってもいい?

遼介  それはやめてください! 何されるかわかんないですから。

     店員が紅茶を新たな客へ運ぼうとする。

直斗  遼介、リラックス出来た?

遼介  え? ええ、まあ。

直斗  すみません、ちょっと。(店員を制止する。店員が持っていたカップと自分が持    っていたカップを交換する。その時、チップを持たせる。)

     店員はタバスコ入り紅茶を客へ運ぶ。

遼介  いいんですか?

直斗  何が?

遼介  紅茶!

直斗  ストップ。

遼介  ?

直斗  目の端で観察するんだ。

遼介  はい。

直斗  客の様子は?

遼介  新聞を見ています。そんなに真剣には読んでないですね。目が泳いでます。

直斗  それから?

遼介  カップに手をかけました。カップは見ずに、口元へ運んでます。あっ!        紅茶を飲みました! 苦しそうですね。でも、何事もなかったかのようにし      てます。変ですね。普通あんなもの飲んだら、店員に文句言いたくなるのに。

直斗  WHY?

遼介  味覚オンチなんですよ。きっと。

直斗  だったら苦しまないでしょ。

遼介  外国人とか。

直斗  お客様はクレームを言う権利があるんだよ。

遼介  あれ? 店を出るみたいですよ。ますます変ですね。

直斗  小さな騒ぎも起こしたくないとしたら?

遼介  まさか!

直斗  気づくのが遅い。後を追うぞ!

遼介  はい!

     遼介走り去る。直斗去ろうとするが、店員に呼び止められる。請求される。が、     財布を出すのに手間取る。

直斗  ああ、くそ。財布が出せない! 遼介! 頼んだぞ!

     遼介、男に追いつく。

遼介  待て!

関   ……

遼介  お前、さっきの紅茶辛くなかったか?

関   ……?。

遼介  何故、店員を呼ばなかった。

関   (遼介を指差す)

遼介  あの紅茶には俺がタバスコを入れたんだ。味覚オンチじゃなければ、二、三      聞きたいことが――。

     関が遼に飛び掛る。遼は防戦一方。よけ続ける。

     遼介、対峙の途中、関の帽子をとる。見えなかった顔が現れる。

遼介  え? 関? うぐ!(関に一撃を入れられ、悶絶)

関   油断したな。

遼介  関? なんで?

関   俺だってやりたくてやってるんじゃない。

     直斗が走ってくる。

直斗  遼介! 大丈夫か!

遼介  直斗さん……

直斗  やっぱりこうなったか。

関   この野郎がタバスコ入れるからですよ。

直斗  遼介がそう言ったのか?

関   そうです。

直斗  悪い。あれ入れたの俺だ。

関   ……やってくれますね!

     関が直斗に的を定める。

     直斗、関の攻撃をかわし、一撃で沈める。

関   げほっ! げほっ!

直斗  わり、やりすぎた。

関   げほげほげほげほ。

直斗  ごめん、何言ってるのかわかんない。とりあえず手錠かけるね。

関   げほげほ。

     香山やってくる。

香山  終わったかぁ~。関が悶絶して咳きしてる! 関が咳きしてる!

遼介  直斗さん! どういうことですか!?

直斗  詳しくは署に戻ってからな。

     全員去る。

          署内。

遼介  訓練!?

直斗  抜き打ちのな。

遼介  全員グルだったんですか!

直斗  まあ、落ち着けって。.

遼介  落ち着いていられますか!

関   全員じゃない。訓練だと知ってたのは、犯人役の俺だけだ。

遼介  でも、直斗さんは関が喫茶店に来るのを知っていたじゃないですか。打ち合わせ    してたとしか思えません。

香山  それは違う。俺たち三人が合流する時点では何も聞かされてなかったさ。

遼介  じゃあ、なんで。

香山  坂井の勘さ。

遼介  直斗さんの勘?

香山  お前だって、こいつの力は知ってるだろ。

遼介  まあ。

香山  こいつは、ごたついてるはずの本部が俺たちに迅速に連絡が出来るはずないとふ    んだのさ。

遼介  俺の一言だけで、察したっていうんですか?

直斗  確信はなかったけどな。抜き打ち訓練も初めてじゃないし、経験ってやつかな。

香山  (遼介に)怒るんだったら、上に怒るんだな。訓練させたのは上だ。

     香山去る。関去る。直斗、遼介の肩を叩く。直斗去る。

     遼介残される。

遼介  俺は悔しさからその場を動けなかった。関に殴られたことは、正直ムカついた。    でも、もしあれが本当の犯人だったら、俺はやられていた……。やっぱり直斗さ    んはすごい。まるで打ち合わせをしてたみたいに、関の行動パターンを予測する    し、何よりあの強さ――。だけど、俺はそれを――。直斗さんに……。取り返し    のつかないことを――。

     遼介去る。               

 忘年会練習2

     瑞稀がいる。ピアノを弾いている。

     香山やってくる。

香山  (ネタについてつぶやいている)

瑞稀  どうも。こんばんは。

香山  ああ、坂井の嫁さんじゃないか。こんばんは。こんな所で何してるんだ?

瑞稀  レッスンです。

香山  レッスン?

瑞稀  今度の忘年会で歌を歌うんですよね?

香山  そう。あっ、わかった。坂井の嫁さんが歌を教えてくれるっていうの?

瑞稀  はい。そんなところです。弟に頼まれちゃって。

香山  そうかぁ、それじゃよろしく頼みますよ。

瑞稀  直斗を重点的に。

     直斗、遼介、関がやってくる。

直斗  あれ? 瑞稀、どうしたんだ?

瑞稀  メール見てないの?

直斗  メール? (携帯をとりだす)バッテリー切れちった。

瑞稀  遼介から聞いてないの?

直斗  何を?

遼介  (ぼーっとしてる)

直斗  遼介。

遼介  え? 何です?

直斗  寝てた?

香山  坂井の嫁さんは歌のレッスンをしてくれるそうだぞ。

直斗  歌? ああ、遼介が瑞稀に忘年会で歌を歌うと言って、瑞稀がそれを聞いて、わ    ざわざ警察署まで駆けつけてくれたってことか。なるほど。

関   何故微妙に説明口調?

瑞稀  遼介? 風邪でも引いた?

遼介  いや、なんでもないよ。全然平気。

香山  バカは風邪引かないから平気だよな。

遼介  バカって言わないで下さいよ。

香山  お前はバカで十分だろ。なんだよ、今日のざまは。

直斗  遼介が何かやらかしました?

香山  危うく人をはねるところだったんだ。運転中にぼーっとしやがって。

遼介  香山さんだって居眠りしてたじゃないですか!

香山  それは関係ないだろ。昨日のこと、まだ引きずってるのか。

直斗  昨日……訓練のことか。

遼介  ……

直斗  香山さん、すみません。俺の指導力不足です。

香山  なんでお前に責任がある。こいつの不注意だ!

関   香山さん、その辺でやめましょうよ。

香山  俺は腹の虫が収まらないぞ。

直斗  香山さん、瑞稀もいるんで。

香山  そうだったな。

遼介  ……

香山  ネタやるぞ! 歌うぞ! ほら、仕事の話しは終わりだ。

直斗  瑞稀。ピアノ。

瑞稀  わかった。どうすればいい? 発声とかもやる?

直斗  適当でいいよ。瑞稀に任せる。

関   よろしくです。

瑞稀  適当にか。じゃあ……。(カバンを探る)

直斗  瑞稀?

瑞稀  じゃあ、これを音読して発声にかえましょう。

香山  「ぼくときみ」これは?

瑞稀  私の作品です。みぃちゃんのお出かけシリーズの最新作です。

関   絵本ですか。

瑞稀  はい。子供から大人まで楽しく読める作品になっているので、香山さんもぜひ。

香山  ああ、そうだね。いくら?

瑞稀  こちら一冊、千八百円です。

香山  絵本って結構するんだね。

瑞稀  お孫さんへのプレゼントに、この機会にどうですか?

香山  孫はまだだけど。

瑞稀  じゃあ、尚更今のうちに持ってた方がいいですよ。お孫さんがうちに来てから買    われたんじゃ間に合わないかもしれませんから。

香山  でもまだ早いよ。

瑞稀  そんなこと言ってたら、お孫さんが可哀想です。買いますよね? 買うよね?

香山  うん。

瑞稀  こちら十冊まとめて買って頂くと、なんと驚きの一万五千円でのご奉仕金額にさ    せて頂きます!

香山  安い! 買った!

瑞稀  売った!

直斗  瑞稀!

瑞稀  ナオ君、何?

直斗  香山さん相手に商売するんじゃない。

瑞稀  ごめんなさい。

関   (遼介に)ドSだな?

遼介  しー!(唇に人差し指をあてる)

直斗  全く、歌の練習を手伝ってくれると思ってのに、ちゃっかりしてんなぁ。

瑞稀  ナオ君は、うっかりだよね。

直斗  話しをそらすな。

関   でも、これホントに面白いですよ。

香山  どれ。ふ~ん。意外と文章が多いんだな。

瑞稀  作品には詩を載せることが多いんで、どうしてもそうなるんです。

香山  そうか(財布を出そうとする)。

直斗  え? 香山さん、ホントに買わないでいいですよ。

香山  坂井の嫁さんは歌を教えてくれるんだ。そのお礼だ。

直斗  まだ何もしてないですし。

香山  先払いだよ。

直斗  はあ。

関   じゃあ、俺も。

直斗  関。

関   俺は十冊セットでお願いします。なあに、十人の女の子に読み聞かせる話のタネ    になるんでいいですよ。

瑞稀  十冊は今ないんだよね。

直斗  あんなこと言っておいて?

瑞稀  勢いで。

直斗  は、香山さん、関。今は在庫がないんで、こんどうちまで届けますよ。お代はい    りませんから。

瑞稀  せっかく商談成立したのに。

直斗  とりあえず、歌の練習しましょ。遼介、カウント。

遼介  あ、はい。それじゃあ、やりましょうか。姉さん、最初の小節から。

瑞稀  絵本で発声は?

遼介  また今度ね。じゃあ、いきます。一、二、三、ハイ!

     瑞稀がピアノの伴奏をし、全員歌いはじめる。

     最初のメロ、もしくはサビを歌った所で、照明・ピアノ・歌をそれぞれ下げる。

     直斗にスポットが当たり、直斗の携帯が振動する。直斗はそれをとる。

直斗  はい。ええ、ええ。ん? そうですか? わかりました。すぐ行きます。

     スポットが消えると共に、照明・ピアノ・歌を元の大きさへ上げる。

     直斗無言で走り去る。

     しばらく歌って、瑞稀がピアノのを間違えて止まる。

瑞稀  ごめんなさい。

遼介  直斗さんは?

瑞稀  途中で出て行った。

香山  小便か?

関   直斗さん、携帯のバッテリー切れてたよな?

遼介  ああ。

      さっき、電話してたぞ。

遼介  え?

香山  おかしいな。恋人用に二台持ってたんかな?

瑞稀  坂井の妻はここに居ますけど。

香山  ありゃ?

遼介  仕事だよ、きっと。課長あたりにでも呼び出されたんじゃないのかな。

関   課長が呼び出しなんてするかね。

遼介  ほら、昨日の訓練についての報告とか。

関   まあ、ありえるか。

遼介  俺の体たらくを怒られてるのかもしれないし。

関   俺にやられたのが不満か?

遼介  そんなこと言ってないだろ。

瑞稀  遼介、決闘でもしたの?

遼介  なんでもない、仕事の話。仕事の成績がこいつの方が良かったんだ。

瑞稀  ふうん。

遼介  ほら、歌の練習の続きやりましょう。

香山  坂井がいないけど。

遼介  大丈夫ですよ。すぐ帰ってくるでしょう。

     一同、練習を再開する。

     次第に照明・ピアノ・歌を下げる。遼介にスポットが当たる。

     遼介以外は片付けをし、去る。

遼介  俺たちは午後九時まで練習を続けたが、直斗さんは戻って来なかった。練習を終    え、俺は姉さんを家まで送って行った。一人だった姉さんに、「直斗さんが帰っ    て来るまで居ようか」と聞くが、「どうせすぐ帰って来るから」と断られた。い    らぬ心配をしたと思い、その場を去ったが、朝になっても直斗さんは帰ってこな    かった。

     遼介去る。

 疑惑萌芽

    自宅

    瑞稀がいる。

    絵本を書いている。悩んでいる瑞稀。

    遼介やってくる。

遼介  姉さん。

瑞稀  ……

遼介  開いてたから上がらせてもらったよ。

瑞稀  ……

遼介  姉さん。

瑞稀  ……

     彩花やってくる。

彩花  遼介。何してんの?

遼介  あっ、立花彩さん。こ、こんばんは。

彩花  家では彩花でいいよ。

遼介  でも、やっぱり慣れなくて。

彩花  まあ、無理にとは言わないけど。それで?

遼介  え?

彩花  何の用?

遼介  直斗さんいるかなぁと――。

彩花  しゃらくせぇ!(遼介を押さえる)

瑞稀  (二人をちら見する)

彩花  (小声で)お兄ちゃんの話はするな。

遼介  (小声で)何でですか?

彩花  (小声で)昨日から帰ってないらしい。

遼介  (小声で)え? ほんとですか?

彩花  (小声で)みたい。

遼介  (小声で)昨日からずっとですか?

彩花  (小声で)そう。今日会ってないの?

遼介  (小声で)今日、直斗さんは非番でしたから。てっきり家に居るものと。

彩花  (小声で)何の連絡もして来ないみたい。だから……

遼介  (小声で)なるほど。

瑞稀  何こそこそやってんの!

遼介  姉さん!

瑞稀  遼介、なんでここにいるの?

遼介  えっと、姉さん元気かなって。

瑞稀  元気です。

遼介  そう、良かった。じゃあ。(帰ろうとする)

瑞稀  もう帰るの? せっかく来たんだから、ゆっくりしていけば。

遼介  どうしようかな。(彩花とアイコンタクト)そ、そうだね。お邪魔していこうか    と思います。お姉様。

瑞稀  これ校正して。

遼介  え?

瑞稀  変な所がないかみて。

遼介  でも、俺編集者じゃないし、どこがどう間違ってるかなんてわからないよ。

瑞稀  警察官って報告書とか始末書とかよく書くんでしょ? 出来るよね?

遼介  それは――。はい、やらせて頂きます。

彩花  遼介もいやなタイミングで来たねぇ。

瑞稀  彩花ちゃんも何かやってくれるの?

彩花  その、校正ってやつ手伝おうかな。

瑞稀  じゃあ、よろしく。

     三人で作業をする。

遼介  姉さん。これは何て題名なの?

瑞稀  地獄の園。

遼介  地獄! これって絵本でしょ? こんなタイトルでいいの?

瑞稀  子供に現実の厳しさを教えるのもいいかと思って。

遼介  それはまずいんじゃない。

瑞稀  編集者の許可は下りないかもね。

遼介  姉さん。

瑞稀  何?

遼介  直斗さんと連絡がとれないってホント?

彩花  あっ、やめとけって。

遼介  ホント?

瑞稀  さあ。どうだったかな。

遼介  姉さん、大事なことなんだ。

瑞稀  知らない。約束破る人なんて。

遼介  約束?

瑞稀  昨日の夜、借りてきたDVDを見るはずだったのに。

遼介  DVD?

瑞稀  そう! 新作だったから昨日までだったの! なのにナオが帰って来ないから延    長料金三百円も払わないといけないんだから。

遼介  あっそう。

瑞稀  遼介も見たい? 「地獄のプリンセス、カズノコホソキ」

遼介  遠慮しときます。

瑞稀  残念ね。ズバリ! 裁くわよ! が見れないなんて。

遼介  そっか。

彩花  遼介、お兄ちゃんに何かあったの?

遼介  え? 別に。

彩花  じゃあなんでそんなこと聞いてるの?

遼介  言えない。

彩花  なんで。

遼介  なんでも。

     回想シーン

     舞台暗くし、スポット内での演技へ切り替え。香山、関やってくる。

香山  おう、来たな。

関   なんすか。今日は練習なしですよね。

香山  そうなんだが、ちょっとな。

遼介  香山さん、用件は?

香山  うん、言いにくいんだよな。

関   早くして下さいよ。今日はデートの約束が四つあるんですから。

香山  わかった。(一呼吸)実はタレコミがあってな。

遼介  誰からです?

香山  知らせてくれた奴は俺の知り合いなんだが、情報元は匿名だ。

関   何だか知りませんけど、ガセに決まってます。

香山  そいつが持ってくる情報はいつも正しい。

関   で?

香山  率直に言うと、どうやら、うちの署に裏切り者がいるらしい。

遼介  裏切り者?

関   何すか? その裏切り者って。ユダ?

香山  そうだ。

関   具体的には?

香山  俺も詳しいことはわからないんだが、捜査情報を誰かに売ったやつがいる。

関   署の何課です?

香山  刑事課だ。だから、容疑者は三十人ほど。

関   香山さん、本気ですか?

香山  俺が貴重な時間割いてまで嘘つくか?

関   ……

遼介  このこと、課長や他の人は?

香山  いや、何か証拠があるわけじゃない。俺が独自にある程度調べてからと思ってる。

遼介  俺たちに話したのはなんで?

香山  お前たちなら信用出来るからな。

遼介  ありがとうございます。

香山  まずは非番の日に何をしてたのかを調べてみる。

遼介  非番?

香山  誰かに接触しやすいだろ。周りのやつがみんな仕事中なら。

遼介  そうですか。

関   直斗さんにはこのこと?

香山  まだだ。あいつ携帯繋がらなくてな。何してんだか。

関   まさか……

遼介  関、そんなわけないだろ。

関   冗談だ。

遼介  きっと、休みだから姉さんとゆっくりしてるんですよ。

香山  携帯の電源まで切ってか? おいおい、そんなに手が離せないことがあるかよ。    はっはっは。

関   ……

遼介  ……

香山  ごほん。いや、その、なんだ。遼介、お前帰りに坂井の家に行って伝えてこい。

遼介  わかりました。

関   怪しいやつは?

香山  ?

関   香山さんが思う犯人は誰ですか? 警戒しておかないと明日から大変ですから。

遼介  関!

関   当然なことだろ。大声出すな。

香山  そうだな。そう思うよな。(一呼吸)俺もこのタレコミが本当なのか探ってる段    階だ。だから、お前たちは気をつけるくらいに留めておいてくれ。

関   わかりました。じゃ、帰ります。

     関、去る。

     香山、遼介は一言二言話す。香山去る。

瑞稀  遼介。

遼介  ……

     直斗舞台の端へやってくる。

     遼介の電話が鳴る。

遼介  誰からだ? あっ! 直斗さんからだ!

瑞稀  えっ! ちょっと貸しなさい! (携帯を奪い)直斗、今どこに居るの?

直斗  瑞稀か。これ遼介の携帯じゃなかったっけ?

瑞稀  そんなのどっちでもいい。どこに居るの?

直斗  あれ? メールしなかったっけ?

瑞稀  してない。何度も電話かけたんだけど。

直斗  携帯のバッテリー切れちゃったんだ。

瑞稀  ナオの携帯ってバッテリー切れても動くんだ。知らなかった。

直斗  連絡しなかったのは悪かったよ。

瑞稀  悪いと思ってるなら今すぐ帰ってきたら? それで、「カズノコホソキ」を見る    の。

直斗  それは無理だ。

瑞稀  なんで?

直斗  俺、実はそれ好きじゃないんだ。

瑞稀  ええ~!!

直斗  (通話終了ボタン押す。彩花に電話をかける)

彩花  (電話を取る)はい、もしもし。

直斗  遼介に代わって。

彩花  遼介、あんたに。

遼介  はい、もしもし。

直斗  遼介、今から指定する場所へ来てくれないか?

遼介  いいですけど、映画見る約束してたんじゃ。

直斗  そうなんだけど……。瑞稀の様子は?

遼介  めっさ落ち込んでます。

直斗  瑞稀には、適当に誤魔化してくれ。

遼介  はいはい。

瑞稀  (ぼそっと)「はい」は一回。

遼介  それで。

直斗  ああ。うちから岬通りを西に真っ直ぐ行った、「アンジェラ」ってバーまで来て    くれ。

遼介  わかりました。

直斗  それじゃ、なるべく早く。(電話切る)

遼介  姉さん、直斗さんはもうしばらくしたら帰ってくるよ。

瑞稀  お土産は?

遼介  パステルのケーキを全種類コンプリートだって。

瑞稀  それじゃ、許してあげようかな。

彩花  え、私も食べたい。

遼介  彩さんの分はないみたいですよ。

彩花  ただケーキ食えると思ったのに。

遼介  俺はもう帰るね。

彩花  帰んの? どっち方面だっけ?

遼介  えっと、西――じゃなくて東方面です。

彩花  乗せてって。私も帰る。

遼介  は、はい。行きますか。

彩花  瑞稀ちゃん、またね。

瑞稀  気をつけて。

     遼介、彩花去る。

     瑞稀、少し考えるそぶりをするがすぐにやめ、去る。

          自宅前。雨が降っている。

     遼介、彩花やってくる。

彩花  あの二人いつも同じようなことしてるね。

遼介  仲がいいんですよ。

彩花  車どこ?

遼介  彩さん。これ(彩花にお金を渡す)

彩花  (受け取る)ん? 私を買おうっていうの!?

遼介  違いますよ。タクシー代です。

彩花  タクシー代?

遼介  お金がないと帰れないでしょう。

彩花  お金くらい持ってるよ! バカにすんな。

遼介  俺、実は直斗さんに呼び出しくらってて。

彩花  お兄ちゃん帰ってくるんじゃないの?

遼介  それが、さっきのは嘘で。

彩花  嘘? 瑞稀ちゃん怒るよ。

遼介  俺も理由はわからないんです。ただ、来てくれって。

彩花  (手を出す)もう一枚。

遼介  え?

彩花  もう一枚頂戴。口止め料ってことで。

遼介  (千円札を出そうとする)

彩花  違う。

遼介  (壱万円札を出す)

彩花  まいど~。

遼介  理不尽だ。

彩花  お兄ちゃんが何企んでるのか知らないけど、気をつけてね。

遼介  心配してくれるんですか?

彩花  お兄ちゃんをね。雨も強くなるみたいだし。

遼介  運転には細心の注意を払います。

彩花  はい。さっさと行きやがれ。

     彩花去る。

6 事故、そして……

         (↓遼介の一人台詞の間に車の形を作っておく。)

遼介  俺は直斗さんに言われた通りに車を走らせた。二十分ほどすると目的の場所へ着    いた。車から降りて、店に入ろうとしたが、その必要はなかった。直斗さんの方    から俺の車へやってきた。

直斗  (窓をたたく)

遼介  (窓を開け)開いてますよ。乗って下さい。

直斗  (助手席側へ回り、乗る)寒いなぁ~。

遼介  もう冬本番ですから。今日はどうしたんです? 呼び出しなんて。

直斗  焦るなよ。まずはドライブを楽しもうじゃないか。話はそれからだ。

遼介  はい。(車を発進させる)

直斗  ……。(しばらく無言)

遼介  ……。(しばらく無言)

直斗  遼介、警察官になろうと思った理由は?

遼介  面接ですか。

直斗  答えろ~。

遼介  大切な人を守りたい。これじゃダメですか。

直斗  かっこいいなぁ。

遼介  はあ。

直斗  警察官になって、得したことは?

遼介  拳銃が合法的に撃てる。

直斗  お前の得はそんなものか。

遼介  いきなり聞かれて、思いつきませんよ。

直斗  お金が手に入るとは思わない?

遼介  危険な職業の割に安月給ですよ。

直斗  給料以外での金だ。

遼介  え?

直斗  わかるだろ。

遼介  何ですか?

直斗  賄賂だよ。逮捕したやつを釈放したり、見なかったことにしたり。捜査情報を売    ったりしても同じかな。

遼介  直斗さん?

直斗  賄賂を受け取れば、財布が潤うぞ~。一戸建てのマイホームだって、たった数年    で現金一括払いが出来る。

遼介  直斗さん、まさか?

直斗  世の中金さえあれば何でも出来るからな。

遼介  香山さんが言ってた裏切り者に――。

直斗  香山さんがどうした。

遼介  署内に、刑事課に裏切り者がいるから気をつけろって。

直斗  そうか、香山さんはもう気づいてるのか。困ったな。

遼介  困った?

直斗  俺の作戦が台無しじゃないか。せっかくここまで来たのに。

遼介  直斗さん…………

直斗  これじゃ隠しきれないな。

遼介  直斗さん! やっぱり!(直斗の方を向いてて、誤って大きくハンドルを切る)

     二人の体は大きく揺れる。

直斗  遼介! 前を見て運転しろ!

遼介  そんなこと言っても!

     さらに二人は揺れる。

直斗  くそ!

遼介  ぶ、ぶつかるーー!!!!

     車は衝突する。二人は投げ出される。

     二人は動かない。

     遼介が動き出す。

遼介  ……う。(咳き込む)

     遼介、ゆっくり起き上がる。辺りを見回す。

     足を引きずりながら、直斗の方へ行く。

遼介  直斗さん……。直斗さん、大丈夫ですか? (直斗を発見し近寄る)直斗さん。    直斗さん!

遼介  自動車の単独物損事故発生! 負傷者二名! 至急、救急車を要請する!

        (↑場面転換の暗闇の中、全員去る)

     場面転換

     自宅

     瑞稀がいる。

     玄関のチャイムがけたたましく鳴る。

瑞稀  はいはい、ナオ君。そんなに鳴らさなくても聞こえてるよ。(玄関へ向かおうと    する)

     関やってくる。

関   瑞稀さん!

瑞稀  え? 関君?

関   今すぐ来てください!

瑞稀  え?

関   遼介と! 直斗さんが!

瑞稀  どうしたの?

関   事故に遭って、危ない状態なんです! だから、早く!

     関は瑞稀の手を引っ張り連れて去る。

     病院

     香山がいる。落ち着きのない動きをする。

     彩花やってくる。

彩花  連絡したのはあなた?

香山  坂井の妹さんですか?

彩花  はい。それで、お兄ちゃんは。

香山  あれ? あなたもしかして立花彩!

彩花  そんなことはどうでもいい! 二人は!

     関と瑞稀がやってくる。

関   連れてきました。

瑞稀  香山さん! 直斗は! 遼介は!

香山  今、坂井は手術中です。遼介はまだ意識が戻らない。

瑞稀  帰ってくるって言ったのに……

香山  もうすぐ手術は終わると思うんですが。

瑞稀  ……

彩花  ごめん。

瑞稀  え?

彩花  私お兄ちゃんが帰って来ないの知ってた。理由はわからないけど、遼介を呼び出    したの。

瑞稀  私だけ知らなかったんだ。

彩花  瑞稀ちゃん。(抱きとめる)

関   座って待ってましょう。

     香山、瑞稀、関去る。

彩花  手術は深夜まで行われた。幸い、命に別状はなかった。けれど、この日、お兄ち    ゃんはいなくなった。

 記憶喪失

     瑞稀やってくる。

彩花  やっと面会出来るね。

瑞稀  ホント、一週間も寝たままなんて。

彩花  それ、手作りのお菓子?

瑞稀  いけない?

彩花  お兄ちゃんは嬉しいと思う。

     二人は病室へ入る。

     直斗はベッドに寝ているのではなく、普通に立っている。

彩花  失礼します。

瑞稀  直斗。

直斗  (振り向いて瑞稀を見る)

瑞稀  直斗……直斗!(直斗に駆け寄る)

直斗  すみません。どちら様ですか?

瑞稀  え? 奥様です。あなたの。

彩花  お兄ちゃん?

直斗  あなたと俺はどういった関係ですか?

瑞稀  あっはっはっは。だから奥様だって。ふざけないでよね。

直斗  ごめんなさい。

瑞稀  振られちゃった。

     香山、遼介やってくる。

遼介  姉さん! 彩さんも。

彩花  これは何の遊び?

遼介  姉さん、ちょっと向こうへ行こうか。

瑞稀  直斗に嫌われちゃった。私がわかんないって。

遼介  その話をしたいから向こうに。

瑞稀  DVD見たいがために、一週間も延長したから怒ってるの?

香山  坂井は忘れちまったんですよ。

瑞稀  へ?

香山  坂井は事故のショックで忘れちまったんです。自分のことさえも。

瑞稀  そんなに怒らないでもいいじゃん。

直斗  ごめんなさい。

瑞稀  あなたの名前は? 歳は? 誕生日は?

直斗  (首振る)

瑞稀  坂井直斗。三十二歳。七月四日。

直斗  (首を振る)

瑞稀  結婚記念日は? 私が初めて出した本の名前は?

直斗  (首を振る)

瑞稀  次わかんないとか言ったら、怒るよ。私の名前は?

直斗  (首を振る)

瑞稀  (直斗をはたく)

直斗  すみません。何もわからないんです。自分のことも、この人たちのことも、あな    たのことも。

彩花  (遼介に)説明して。

遼介  最初は、からかってるのかと思ったけど、ホントにそうみたいなんだ。最新のポ    リグラフにかけても、波形の乱れはみられなかった。

香山  医者の診断によると、全生活史健忘という記憶障害。俗に言う記憶喪失らしい。

瑞稀  治るよね。

遼介  わからない。

瑞稀  わからない?

瑞稀  時間をかければ治るよ。

香山  あまりこういうことは言いたくないが、思い出さなかった事例もある。期待し過    ぎんことです。

瑞稀  遼介。なんで?

遼介  え?

瑞稀  なんで事故なんか。

遼介  ごめん。俺の不注意で。

瑞稀  バカ。

遼介  ……

瑞稀  バカ!

遼介  姉さん。

瑞稀  ……

香山  とりあえず、医者の所に行って詳しいことを聞いてきましょう。今ここに居るの    は、お互い酷でしょう。

     瑞稀、香山、彩花去る。直斗、遼介は残る。遼介が一人台詞を言ってる間に直     斗去る。

遼介  俺は姉さんの大切な人を消してしまった。何もない、真っ白な状態に。車での出    来事は誰にも言わなかった。香山さんに事故の原因をしつこく聞かれたが、自分    の不注意だと突き通した。

遼介  脳波に異常もなかったので、直斗さんは退院し、自宅療養になった。でも、記憶    が戻ることはなかった。

     遼介去る。

 休息

瑞稀  わかった? ここがリビング。キッチンがそこ。トイレは玄関に一番近いとこ。

    寝室はあっちね。

直斗  けっこう広い家なんですね。

瑞稀  ダメ。

直斗  え?

瑞稀  敬語は禁止。

直斗  はい。すみません。

瑞稀  んんっ?

直斗  ご、ごめん。

瑞稀  よろしい。

直斗  ここに二人で住んでるんですか――住んでるの?

瑞稀  結婚してるんだから当たり前でしょ。

直斗  子供は?

瑞稀  結婚して一年だから、まだ。

直斗  そうなんだ。

瑞稀  なんか変な感じ。

直斗  え?

瑞稀  遼介が小さい時を思い出す。

直斗  遼介さんって、瑞稀さんの弟の?

瑞稀  みずき。

直斗  みずき。

瑞稀  直斗が小さい子みたい。

直斗  僕は三十二歳だよ。

瑞稀  覚えたんだ。

直斗  はい。自分の名前と年齢くらいは覚えないと、迷惑かけちゃうから。

瑞稀  わかんないことは遠慮なく聞いて。ホントの直斗はもっとひどいんだから。

直斗  僕、暴力とか振るってた?

瑞稀  違う違う。つっこみが激しいの。私が折角編んだセーターを、こんなの着られる    かーって投げるの。

直斗  それはひどい。

瑞稀  そうそう。毎日一段、二段って増やして編んでいったのに。

直斗  僕ってひどい人間なんだね。

瑞稀  小さな糸で一生懸命編んだんだよ。

直斗  そうか。ん? 糸? 毛糸じゃなくて。

瑞稀  ミシン糸が余ってたから、作ったんだ。こんなの(手で大きさを示す。掌位。)

直斗  って、そんなちっさいの着れるかぁーー!!

瑞稀  直斗っぽい♪

直斗  え? そう? 僕ってもしかしてコメディアンに向いてるのかな。

瑞稀  漫才でもやれば。

直斗  でも、確か僕って警察官なんだよね。

瑞稀  そう。戦ってみる?

直斗  いや、いいよ。警察官か。どういう志でなったのかな。

瑞稀  愛する人を守るため。

直斗  え?

瑞稀  愛する人を守るためって言ってたよ。

直斗  かっこいいね。

瑞稀  自分で自分を褒めないで下さ~い。

直斗  愛する人を、か。

瑞稀  (外人風)あなたの愛する人は、誰ですか?

直斗  瑞稀、さん?

瑞稀  (直斗の頭を軽くたたく)(外人風)さんはいらな~い。

二人  (笑う)

瑞稀  リラックスした?

直斗  笑ったら唇切れた。

瑞稀  ありゃあ、痛いの痛いの三日もすれば痛くなくなる!

直斗  何それ? (笑う)

瑞稀  いつも言ってるじゃん。

直斗  おかしいの。(笑う)

瑞稀  笑いすぎ。

 関の誘い

     警察署内

     遼介やってくる。

     一人で作業をしている。

     関やってくる。

関   お~い! 遼介。

遼介  (無視)

関   おい、無視すんなよ。

遼介  何?

関   稽古しようぜ。

遼介  剣道? パス。

関   なんだよ。いいだろ。

遼介  どういう風の――。(途中面倒になってやめる)

関   今彼女が来ててさ。剣道やってる所を見たいって。

遼介  見せてやれば。

関   格好よく戦ってる所がいいんだ。

遼介  ふ~ん。

関   相手がいないとだろ?

遼介  俺に負けろって?

関   わかってるじゃないか。今度おごるから、適当にやってくれよ。な?

遼介  今忙しいんだ。

関   ツリーに飾り付けしてるだけだろ。ほら、行こうぜ。

遼介  離せ。

関   なあに?

遼介  離せ!

関   (手を離す)?

遼介  ……

関   イラついてんな。

遼介  ほっとけ。

関   事故のことか?

遼介  ……

関   原因はお前の不注意かもしれない。けど、起こったことはどうしようもない。

遼介  でも。

関   さっさと切り替えろ。

遼介  お前は気楽だな。

関   香山さんが言ってたこと忘れたのか?

遼介  え?

関   署内に、しかも刑事課に裏切り者がいる。

遼介  わ、忘れてない。

関   だったら……

遼介  わかったよ。切り替えればいいんだろ。

関   あれから直斗さんに会ったか?

遼介  いや。

関   お見舞いにも行ってないのか。

遼介  どの面下げて行けばいいんだ。

関   普通でいいだろ。直斗さんは事故のこと覚えてないんだから。

遼介  覚えてないのは俺のせいだ。

関   めんどくせえ奴だな。今夜直斗さんち行くぞ。

遼介  待てよ。

関   待つのは女の子だけだ。ほら(手を引く)

遼介  どこ行くんだ? 直斗さんち?

関   まずは道場だ!

     関、遼介去る。

10 思い出勉強会

     家

     直斗、瑞稀がいる。

瑞稀  じゃあ復習ね。私たちが初めて会ったのは?

直斗  六年前。

瑞稀  私の誕生日は?

直斗  三月三日。

瑞稀  直斗がもらった署長賞の数は?

直斗  二つ。

瑞稀  この、作品は何ていう賞をもらった?(本を見せる)

直斗  日本文学社絵本賞。

瑞稀  よく覚えたね。

直斗  坂井直斗にとって大事なことだから。

瑞稀  えらい、えらい。

直斗  この絵本の表紙、切り込みが入ってるね。

瑞稀  え? ああ、表紙のみぃちゃんが取れるの。

直斗  へえ~。それで遊べるんだ

瑞稀  初版だけなんだ。予算の都合でさ。

直斗  外してもいい?

瑞稀  いいよ。

     直斗外そうとする。

     玄関のチャイムが鳴る。

     瑞稀は絵本を持ったまま出る。

     関、遼介やってくる。

瑞稀  お客さん。

関   直斗さん、こんばんは。

直斗  こんばんは。君は、関君だよね。

関   はい。(うつむいている遼介を見て)ほら。

遼介  どうも。

直斗  遼介君、いらっしゃい。

遼介  ……

関   お元気そうなんで、俺はこれで失礼します。

遼介  もう帰るのか?

関   俺はお前を連れて来ただけだ。

瑞稀  ゆっくりしていけば?

関   いえ、大丈夫です。それじゃ。

     関去る。

瑞稀  関君は予定でもあるのかな?

遼介  ……

瑞稀  遼介~?

遼介  え? あ、うん。そうじゃない?

瑞稀  今お勉強してたんだ。

遼介  そう。

瑞稀  私と直斗のヒストリーをね。遼介も手伝ってよ。

遼介  直斗さん、何か思い出した?

直斗  思い出したことはない。瑞稀に言われたことは覚えたんだけどね。

遼介  そっか。

直斗  でも頑張って思い出すよ。

遼介  頑張って下さい……

瑞稀  あんたもやんの。仕事のことは遼介の方が詳しいんだから、直斗に話してあげて。

遼介  何を話したらいいか。

直斗  何でもいいよ。昔のことでも、最近のことでも。

遼介  じゃあ、剣道のことでもいいですか?

直斗  いいよ。

遼介  直斗さん、剣道をやってたことは覚えてますか?

直斗  いまいち。

遼介  直斗さん、すごく強かったんです。署内で勝てる人はいませんでした。

瑞稀  それなら私も知ってるよ。

遼介  稽古中のことは姉さんも知らないでしょ?

瑞稀  まあ。

遼介  俺警察官になってから剣道始めたんで、あんまり上手くないんです。練習しても    そんなに伸びなくて。でも、直斗さんに教えられて大分上達したんですよ。

直斗  そうなんだ。

遼介  剣道自体は上手くなったんですけど、試合には勝てなかった。直斗さんみたいな    集中力が俺にはなくて。

直斗  うん。

遼介  稽古中、直斗さんに見えてないことはないんです。相手の呼吸、心拍数、心。対    峙すると何を打てばいいのかわからなくなる。

直斗  達人だねぇ。

遼介  ホントにすごかったんですよ。

瑞稀  今やってみる?

遼介  ここで?

瑞稀  確か、直斗の部屋に竹刀があったから。

遼介  こんな所でやったら危ないよ。

瑞稀  本気でやるんじゃなくて、形だけ。状況で何か思い出すかもしれないでしょ。

遼介  まあ。

直斗  やってみよっか。

遼介  直斗さん?

直斗  早く思い出さないと、警察の仕事に復帰出来ないからさ。

遼介  わかりました。

瑞稀  取ってくんね~。

     瑞稀去る。

遼介  「裏切り者」って単語わかります?

直斗  言葉の意味?

遼介  いえ、そうじゃなくて。それ以外で。

直斗  映画とかドラマとかで出てくるとか?

遼介  なんでもないです。忘れて下さい。

     瑞稀持ってくる。

瑞稀  持って来たよ。(二人に竹刀を渡す)

直斗  竹刀ってどうやって持つの?

遼介  えっと、こうやってですね。そうですそんな感じです。(←説明になってればよ    い)

直斗  竹刀って長いんだね。

遼介  三九(さんく)。三尺九寸ですから、約百二十㎝です。

直斗  へえ。

遼介  構えは俺を見て真似て下さい。

直斗  わかった。

遼介  基本的に竹刀の握りは崩さずに、上に振り上げて降ろすって感じです。

直斗  こうかな?

遼介  そうです。

瑞稀  始め!

遼介  ?

瑞稀  試合っぽくしてみたら? 適当に。

直斗  お願いします。

遼介  はい。それじゃ。

    遼介気合い声を出す。直斗はそれを真似する。遼介竹刀を振り上げて止める。直斗はそれを見て受け止め     の姿勢になる。遼介は打たずに、受けの姿勢になる。直斗はそこめがけて打ち込む。何度か打ち込む。最     初は恐る恐るだが、徐々に力を入れる。何度かやると遼介が直斗の打ち込みを受け流す。直斗は勢い余っ     て前につんのめるようにして進み、遼介のいる場所を過ぎる。もう一度やる。すると、遼介が構えを解く。     距離をとり、一礼する。直斗も応じる。遼介は最初よりも大きな気合い声を出す。直斗も真似る。遼介は     軽くフェイントをし、面を直斗の頭ぎりぎりに打つ。直斗は反応出来ずにいる。遼介はもう一度距離をと     る。すると、直斗の顔つきが変わる。遼介が直斗の竹刀をはじこうとするが、直斗はびくともしない。直     斗が動く。直斗は竹刀を振り上げ、振り下ろす。遼介は面だと思い、面を守ろうとするが、直斗の狙いは     胴。遼介は慌てて胴を竹刀で防ぎ、がら空きな直斗の頭に竹刀を打ち込む。直斗は勢いよく吹っ飛び、絵     本が置いてあった所に激突する。

直斗  いてて。

瑞稀  大丈夫!?

直斗  こぶ出来たかも。

瑞稀  遼介、本気だったでしょ。

遼介  すみません。つい。

瑞稀  もう。

遼介  直斗さん。大丈夫ですか?

直斗  平気平気。こっちもやり過ぎたし、おあいこだね。

遼介  何か冷やすもの持ってきます!

     遼介去る。

瑞稀  アイスノンあるよ! 行っちゃった。

直斗  片付けないとね。

瑞稀  (直斗)。

直斗  (絵本を拾う。表紙のキャラが外れている)あれ? この中何か入ってるよ?

瑞稀  ホントだ。何かセロテープでくっつけてある。ん? マイクロSD?

直斗  瑞稀の?

瑞稀  違う。直斗のじゃない?

直斗  そうかな?

瑞稀  うちにあるもので、私のじゃなきゃ直斗のでしょ。(渡す)

直斗  (眺める)何か書いてある。「Fake」?

瑞稀  中に入ってるやつのタイトルじゃない?

直斗  中に何が入ってるんだ?

瑞稀  私は知りません。変なものじゃないよね?

直斗  わかんないよ。でも、これ見たことある。

瑞稀  思い出したの?

直斗  そんな気がするだけ。何も思い出してない。

瑞稀  後で見てみよう。思い出の写真が入ってるかもしれないし。

直斗  うん。

     遼介やってくる。

遼介  持って来ました!(直斗に渡す)

直斗  ありがとう。(受け取る)

遼介  直斗さん、何持ってるんです?

直斗  マイクロSDカード。絵本の中に入ってたんだ。

遼介  絵本に? どうやって?

瑞稀  みぃちゃんが外れる本。その隙間に入ってたの。

遼介  それの中身が何だか知ってるんですか?

直斗  パソコンに接続してみないとわかんないよ。ロボットじゃないんだから。

遼介  そうですよね。

直斗  (打たれた箇所を触る)いてて。

遼介  大丈夫ですか。

直斗  大丈夫大丈夫。警察官はこれくらい耐えないとね。

瑞稀  手加減ってものを知らないんだから。

遼介  ごめん。

瑞稀  明日仕事はないの?

遼介  あるよ。

瑞稀  今日はもう帰れば? 直斗は冷やしておけば治るから。

遼介  でも俺がいけないんだし。

瑞稀  提案したのは私。姉弟で遠慮なんかしないでよ。

遼介  直斗さん、ホントにすみませんでした。

直斗  いいって。

     遼介去る。

瑞稀  ナオ、剣道やって何か思い出した?

直斗  ……

瑞稀  な~お~。

直斗  瑞稀。

瑞稀  何?

直斗  「カズノコホソキ」の最新作はある?

瑞稀  もう返したから……。うげ。(返してないことを思い出す)

直斗  今から見ようか。

瑞稀  いいけど、好きじゃないんでしょ?

直斗  折角借りたんだから、見よう。

瑞稀  うん。

11 思い出した

    DVDをセットし、見始める。

     二人で大人しく見ている。

直斗  瑞稀。

瑞稀  やっぱりつまんない?

直斗  えっと、そうじゃなくて。

瑞稀  いいよ。無理しなくても。(消す)

直斗  ごめん。

瑞稀  今日中に返して来ますよ。料金が恐ろしいことになってるから。

直斗  俺さ――。

瑞稀  俺?

直斗  俺、ちょっと前に思い出してたんだ。

瑞稀  え? ええ~~!! 私のことは? プロポーズの台詞は?

直斗  ちゃんと思い出したよ。

瑞稀  なんでもっと早くに言わないの!

直斗  だから、ごめんって謝ってるじゃないか。

瑞稀  謝って済むことじゃない! どれだけ心配したと思ってるの!

直斗  待ってよ。思い出したのはついさっきなんだ。

瑞稀  つい、さっき?

直斗  遼介に竹刀で叩かれて。それまではボンヤリと頭の中に知らないはずのことが浮    かぶだけだった。知らないことを知ってるというのは気持ちが悪くて。ホントの    記憶なのか、想像しただけのものなのか、区別がつかなかった。

瑞稀  それでも言ってくれればいいのに!

直斗  うん……

瑞稀  ?

直斗  思い出したは、思い出したんだけど、事故に遭うちょっと前のことは思い出せな    い。

瑞稀  いつくらいまでわかる?

直斗  今年の夏くらいかな。半袖を着ていた。

瑞稀  それじゃ、最近のことはわからないんだ。

直斗  さっきマイクロSDを見つけたよね?

瑞稀  うん。

直斗  あれに触れた時、何か嫌なものを感じた。

瑞稀  嫌なもの?

直斗  何て言ったらいいか。自分がすごく悪いことをしているような。

瑞稀  やらしいものが入ってるんじゃ。

直斗  そうじゃない。もっと、淀んだ、薄暗い感じ。もしかしたら、俺は何か悪いこと    をしていて、そのことがマイクロSDに入っていたのかも。

瑞稀  ……

直斗  だから先に謝っておこうかと。あれの中を見たら、俺はここに居られなくなるか    もしれない。

瑞稀  でも、見るんでしょ?

直斗  うん。そうすれば、全部思い出すかもしれない。

瑞稀  わかった。見終わったら、教えてね。

     瑞稀去る。

     直斗に照明を集中。他を暗くする。

     直斗、パソコンにマイクロSDを接続する。

     パソコンのキーを叩く。

直斗  よし、接続は出来た。パスワード? そうか、隠してあったくらいだから、パス    ワードくらいあるか。記憶がないんだからわかるわけない。

     物音がする。

直斗  ん? 瑞稀?

     音がする方へ歩いて行く。

     すると反対側から侵入者が現れ、パソコンに接続されていたカードを抜き取る。

直斗  誰だ!

     直斗、侵入者を押さえようとするが、抵抗されて逃げられる。

     音に気づき、瑞稀やってくる。

瑞稀  どうしたの?

直斗  誰かが、うちに。

瑞稀  うそ! 大丈夫?

直斗  俺は平気だ。瑞稀は?

瑞稀  (首をふる)

直斗  マイクロSDがなくなってる。

瑞稀  中身は見たの?

直斗  パスワード入れないと見れなくて。

瑞稀  そっか。

直斗  でも、なんであんなものを。

瑞稀  警察に電話する?

直斗  やめよう。警察官が家宅侵入されたなんて、かっこ悪い。

瑞稀  そんな意地はってないで。

直斗  もしかしたら、犯人は――。

瑞稀  香山さんに電話して来てもらおうよ。

直斗  瑞稀、俺が思い出したってことは誰にも言わないで。

瑞稀  何で。

直斗  その方が都合がいい、気がする。

瑞稀  遼介と彩花ちゃんは?

直斗  二人も例外じゃない。俺が事故のこと思い出すまで。

     直斗、瑞稀去る。

12 発覚

     警察署内

     香山、関がいる。

     二人で何かを話している。

香山  間違いないな。

関   これを聞く限りでは、決定的ではないですが。

香山  糸口は見えただろう。これで勾留することくらいは出来る。

関   でも、ホントにそうなんでしょうか?

香山  もう一度聞くか?

関   あの人ともあろう方が、こんなバカなことをするなんて。

香山  人は見かけで判断してはいけない。捜査の基本だろ。

関   はい。そうでしたね。

     遼介やってくる。

遼介  おはようございま~す。(小声で。二人は気づかない程度)

香山  たいした時間もかからずに、坂井直斗を逮捕出来るだろう。

遼介  香山さん?

香山  浅倉……。(明るく)いるならいるって言えよ。存在感のないやつだなぁ。

遼介  香山さん、今なんて?

香山  なんでもない。忘年会のネタ合わせだ。

遼介  直斗さんを逮捕するって……

関   聞いてたのか。

遼介  どういうことですか? なんで直斗さんを逮捕するするんですか?

香山  ……

遼介  香山さん!

香山  ……

遼介  おい、関! 何とか言えよ。

関   ……。直斗さんが裏切り者である可能性が高い。

遼介  何だって? どこにそんな証拠があるんだよ。見せてみろよ。

関   ……

遼介  関!

香山  見せてやるよ!

遼介  香山さん……

香山  これだ。(ICレコーダを見せる)見覚えあるよな? 坂井のだ。

遼介  これがどうしたんですか? 勝手に持ち出して。

香山  あいつの机から取ったんじゃない。お前の車――事故車両から発見された。

遼介  直斗さんのポケットから落ちただけでしょう。

香山  事故の原因。なんで話さなかったんだ?

遼介  話したじゃないですか。俺の不注意でって。

香山  不注意だとしても、何か原因はあるだろう。通話中だったとか。

遼介  ただの不注意です。

香山  わかってるよ。坂井との会話で動揺したんだろう。

遼介  !

香山  お前を引き抜こうとしてたんだろうな。

遼介  ちょっと遊んでただけです。

香山  仲間に引き入れ、簡単に逃げられないように証拠を残そうとした。

遼介  ……

香山  お前を脅すために撮ったもので、自分の犯罪が暴かれるなんてな。

遼介  直斗さんを逮捕するんですか。

香山  決定的な証拠がないから今は無理だ。そのうちな。

遼介  そんな。

香山  お前はしばらく署にくるな。身内の捜査なんて出来ないだろ。

遼介  ……

香山  でも、忘年会は来い。坂井も連れて。あいつとの最後の思い出作りだ。

遼介  思い出作りって。

香山  忘年会終了後、あいつを拘束する。以降、あいつが外の人間と関わることは出来    ない。今のうちに思い出を作るように言っておくんだな。

遼介  ひどい。

香山  悪いのはあいつだ。それに、俺はあいつのことが好きじゃない。勘がいいからだ    とか何とか言って、署長が引き抜いてきて。俺の土俵をぐちゃぐちゃにしてよ。    俺は俺のやり方でここまで来たんだ。あんなやつ、極刑になっても俺は同情しな    い。(関に)行くぞ。

     香山、関去る。

     遼介、その場にへたり込む。

     携帯が鳴る。

     遼介携帯を取り出す。画面を見て、閉じる。

遼介  くそ! どこまでやれば気が済むんだ! でも、やるなら、忘年会の日に。

     遼介去る。

     香山は携帯の画面を見ながらやってくる。遼介の去った方向を見て、携帯を閉     じる。微笑を浮かべ、去る。

13 岬署忘年会

     忘年会会場

     直斗、瑞稀、彩花やってくる。

彩花  なんで私も出席すんの?

直斗  遼介君が、是非呼んで下さいっていうから。

彩花  女優は暇じゃないの。

直斗  今日は休みだって。

瑞稀  どっか食べに行こうって言ったら、了解してくれたでしょ?

彩花  こういうの詐欺っていうんだけど。

瑞稀  キャ、逮捕されちゃう。

直斗  (カタコトで)逮捕するぞ~。

彩花  わぁったよ。今から帰るなんて言わないよ。それに帰れそうもないし。(看板を    見る。「本日の特別ゲスト 女優・立花彩さん」)

直斗  なんだか盛大だね。

彩花  一般人として来たかった。

瑞稀  贅沢な悩み。

彩花  瑞稀ちゃんも、毎日五人から言い寄られるようになればわかるよ。

瑞稀  言い寄られちゃう?

直斗  さあ。

     香山、関やってくる。

香山  どうもどうもどうも。こんにちは! 立花彩様!!

彩花  誰? このおっさん。

香山  おっさん?!

彩花  どう見てもおっさんでしょ。

香山  一度お会いしてるんですよ~。

彩花  ああ、病院で。

香山  あなたのファンでして……

彩花  ファン? そっか、ごめんなさいね。(切り替えて)こんにちは、私立花彩と言    います。先日はお世話になりました。あなたの連絡のおかげで兄の危機に間に合    うことが出来ました。ありがとうございます。(また切り替えて)こんなんでい    い?

香山  ありがたいお言葉ありがとうございます!

関   根っからのMですね。

     遼介やってくる。

遼介  (元気に)おはようございます。

関   おはよう。

遼介  関が挨拶返してくれるなんて珍しいな。

関   別に。

遼介  来てくれましたね。

直斗  もちろん。

遼介  彩さんも。

彩花  来たけどさ。何この騒ぎ。ボディーガード連れてないんだけど。

遼介  大丈夫です。俺が守ります。

彩花  私が親戚だとか言ってないよね。

遼介  それは言ってないです。義理の兄弟の、知り合いの、部下の、友人の姉の結婚相    手の、妹だって言っただけです!

彩花  まあいいや。

遼介  迷惑でした? 迷惑でしたら、遠慮なく言って下さいね。俺は迷惑な自己中心的    な粗大ゴミだぁ~! って叫びながら、署内を周りますから。

彩花  いいよ。迷惑じゃないから。

遼介  恐縮です。俺今日は司会をやりますんで、よろしくお願いします。あっ、みなさ    にこれ渡しておきます。(紙を渡す)原稿のチェックがあるんで、ちょっと失礼    します!

     遼介去る。

瑞稀  何?

直斗  アンケートだって。警察官になった動機から、好きな子の名前まで。……忘年会    実行委員会。

瑞稀  張り切ってるね。

直斗  そうだね。

香山  しばらく、休んで充電出来きたかな。あいつ事故のこと気にして落ち込んでたん    だよ。

直斗  うちに来た時は、元気なかった。

香山  そうそう、そうだったんだ。だから、しばらく休んでろって。

直斗  元気になってよかったです。

香山  思い出作りのために爆走だな。

直斗  そんな感じですね。

香山  そういうお前はどうなんだ? 俺のことわかるか?

直斗  香山さん。ですよね?

香山  なんか気持ち悪いな。あってるけど。

関   直斗さん。歌の練習はしました?

直斗  バッチリだよ。特別ゲストもいるし。

彩花  私も歌うの!?

瑞稀  女優兼歌手でしょ?

直斗  はい、これ楽譜ね。僕はもうなしでも歌えるからさ。

彩花  初見は苦手なの~。

香山  (直斗に)なあ、坂井。

直斗  はい。

香山  今日、武装してないよな?

直斗  ぶそう?

香山  武器とか防弾チョッキとか。

直斗  してるわけないじゃないですか。忘年会に危険はないです。

香山  そうだな。(直斗の体に触れる)いい体つきだな。(胸筋を触る)

直斗  香山さんは?

香山  俺の体は大丈夫だ。

     遼介、マイクスタンドを持ってやってくる。

     遼介セッティングする。

遼介  (マイクテストし)大変長らくお待たせ致しました。これより岬署忘年会――通    称「みさぼう」を開始しま~す!

瑞稀  通称とかあったの?

関   いえ。多分あいつの空回りです。

瑞稀  残念な子。

遼介  本日司会を務めさせて頂くのは、岬署の春一番こと浅倉遼介で~す! どうぞよ    ろしくお願いしま~す!

彩花  痛い。痛すぎる。

遼介  最初の出し物は、関和馬と香山幸洋によるお笑いコンビ、コロボックル。「史上    最強の漫才。~コロボックルライブ2008~」!!

香山  よし! 出番だ!

関   はい。

遼介  ――を予定していたんですが、ここで急遽プログラムが変更になったので、後ほ    ど。(香山と関ずっこける)

[香山 関] おい!

遼介  代わりに何をやるかと言いますと、皆さんご存じ、立花彩さんとその仲間達によ    る合唱です!!

彩花  もう!? 発声すらしてない。

遼介  立花さんはもう準備完璧オールオーケーだそうです。

彩花  待てよ。

遼介  それではスタンバイお願いします。

     みんな準備始める。

遼介  私めも、恐れ多いのですが仲間達の一員でもありますので、合唱の方に参加した    いと思います。では。

     遼介合流。

彩花  (小声で)おい、早すぎだろ。

遼介  (小声で)大丈夫ですよ。すぐ終わりますから。

     準備を続ける。

遼介  (小声で)直斗さん。歌う時、目を閉じていて下さい。

直斗  (小声で)感情を込めろってこと?

遼介  (小声で)すぐにわかります。

瑞稀  準備はいいですか? (確認すると、ピアノを引き始める)

     全員で歌を歌う。遼介と直斗は目を閉じて歌っている。

     一番のサビの途中くらいまでいくと、突然全ての照明が落ちる。

     暗闇の混乱の中、遼介と直斗は舞台から去る。

     数秒すると明かりが元に戻る。

瑞稀  恐かった~。

彩花  あれ? お兄ちゃん?

瑞稀  遼介?

香山  あいつらどこへ行ったんだ……

関   香山さん! もしかして!

香山  そうか! くそ! あいつら!

     香山、関去る。

瑞稀  どうしたの!?

     瑞稀去る。

彩花  え? 待ってよ。(群衆の視線が気になり)立花彩、歌います! (小声で)も    う、どうすればいいのよ~。

     舞台転換

          遼介と直斗走ってくる。

直斗  遼介君、どうしたの?

遼介  いいから、行きましょう!

直斗  どうしたんだよ。歌の途中だったのに。

遼介  今はここから一刻も早く!

直斗  わかった。

     遼介去る。直斗追いかけ去る。

     香山、関やってくる。

香山  どこへ行くつもりだ。

関   きっと直斗さんを逃がすつもりなんです。

香山  あてはあるのか……。駐車場へ行くぞ!

関   はい!

     瑞稀やってくる。

瑞稀  待って!

香山  ……

瑞稀  これも忘年会の余興?

関   違います。遼介が直斗さんを逃がそうと。

香山  おい!

関   隠しきれませんよ!

香山  仕方ない。詳しいことは車で。

     香山、関、瑞稀去る。

14 逃亡

     車

     遼介、直斗が乗っている。

直斗  ……

遼介  ……

直斗  遼介君、どこへ?

遼介  わかりません。出来るだけ遠くへ。

直斗  遠く? 何のために?

遼介  香山さんから離れるためです。

直斗  どうして?

遼介  香山さんは、直斗さんを逮捕するつもりなんです。

直斗  やっぱり、俺は何かをしていたのか。

遼介  直斗さん? 何か思い出したんですか?

直斗  ……

遼介  直斗さん。

直斗  事故の起きる前。今年の夏くらいまでのことはな。

遼介  ! なんで隠してたんですか! 遼介君だなんて。

直斗  悪い。

遼介  あのことは思い出したんですか?

直斗  あのこと? 俺は何かをしたのか?

遼介  事故に遭う直前。

直斗  そこから前、半年くらいが抜け落ちてる。だからわからないんだ。

遼介  そうですか。時間の問題ですね。

直斗  うん?

遼介  直斗さんが全てのことを思い出すのに、そう時間はかからないでしょうね。

     香山、関、瑞稀へと転換

     車の中

瑞稀  直斗が裏切り者?

関   信じたくはないですが、遼介がかばっている所を見ると。

瑞稀  そんな。

香山  あいつが不審なことをしていたという心当たりは?

瑞稀  ありません。

関   やっぱり、違うんじゃ。

香山  まだそんなこと言ってるのか! あまりかばい盾をするようなら、お前も坂井の    仲間だとしても文句はないな。

関   勘弁して下さいよ。

瑞稀  直斗がそんなことするはずないです。

香山  するはずのない人間が罪を犯すんですよ。往々にしてね。

     遼介、直斗へ切り替え。

     香山、関、瑞稀は去る。

     遼介、直斗車から降りる。

直斗  こんな山奥まで来てどうするんだ? もう一時間以上も歩いたぞ。

遼介  ここからは歩きで行きます。車ではGPSでの追跡が可能ですから、逃げ切れま    せん。車では通れない道で距離を稼がないと。

直斗  さっきのこと話してくれよ。

遼介  着きました。ここへ入りましょう。

直斗  何だ? この建物は?

遼介  どこかの金持ちが建てた別荘です。もう廃墟と化していますが。

     遼介入っていく。(去る)直斗もついて行く。(去る)

     香山、関、瑞稀やってくる。

関   あいつが乗ってた車ですね。

香山  山の中へ逃げ込んだのか。

関   応援、呼びますか?

香山  いや、俺たちの手で捕まえよう。一緒に危険を乗り越えてきた仲間だ。最後は俺    たちの手で引導を渡してやろう。

関   引導って!

香山  言葉のあやだ。逮捕するってことだ。

瑞稀  私、二人を捜してきます。

香山  森の中は危険だ。もう夜になる。

瑞稀  それでも行きます。

香山  関、一緒に行ってやれ。

関   香山さんは行かないんですか?

香山  俺たちの手でとは言ったが、全員が行って行方不明になるのも馬鹿馬鹿しい。俺    はここに残る。もし朝になっても帰って来なかったら、仕方がないが応援を呼ぶ。

関   わかりました。行きましょう。

瑞稀  はい。

     瑞稀、関去る。

     香山はしばらくその場にいる。が、少し経つと瑞稀たちが去った方向へ歩いて     行く。(去る)

15 大切な人を守るため

     屋敷

     薄暗い中、遼介と直斗やってくる。

直斗  何も見えないぞ。

遼介  ちょっと待って下さい。(懐中電灯を出す。)

     懐中電灯を点け、辺りを見回し、電気のスイッチを見つけ、つける。

     舞台明るくなる。遼介は直斗に対して背を向けている。

直斗  お。電気が通ってるのか。

遼介  直斗さん。姉さんは知ってるんですか?

直斗  俺のしたことか?

遼介  直斗さんが記憶を取り戻したこと。

直斗  ああ、知ってる。

遼介  それじゃあ、姉さんとは色んな話をしたんですね。

直斗  最初は怒られたけどね。

遼介  すごく心配してたから。

直斗  殴らなくてもいいと思うんだけどな。

遼介  直斗さんのことが大切なんですよ。

直斗  痛かったけど、やっと帰ってきた気がしたよ。

遼介  そうですか。

直斗  だけど、俺は何か悪いことをしてたみたいだ。

遼介  その根拠はどこから?

直斗  ほら、お前がうちに来たとき、俺マイクロSD持ってただろ。それから嫌なもの    を感じたんだ。

遼介  直斗さんの勘は、記憶がなくても健在だったってことか。

直斗  勘っていうより潜在意識に近いんじゃないか? 元は知っていたことだし。

遼介  (小声で)やっぱり始末しておいて良かった。

直斗  ?

遼介  さっきの話に戻りますけど、姉さんとはどんなことを話したんです?

直斗  瑞稀は初めて会ったときのことから話してくれたよ。付き合うようになることも、    結婚のことも。

遼介  思い出話ですね。

直斗  そんな所かな。

遼介  アンケートには何て書きました?

直斗  忘年会の?

遼介  はい。警察官になった理由は、という項目があったんですが。

直斗  書いてない。

遼介  なんです?

直斗  愛する人を守るため。

遼介  奇遇ですね。俺も似たようなものなんですよ。

直斗  何なんだ?

遼介  この会話、前にもしたことあるんですけど覚えてます?

直斗  いや。

遼介  事故の直前のことです。あのときは俺が答える側だったんですけど。

直斗  そんなことを聞いたのか。

遼介  あれは説得するために言ったんですか? 俺が警察官になった理由を思い出させ    ることで、足を洗わせようとしたんですか?

直斗  え?

遼介  直斗さんも人が悪い。証拠も掴んでいたんでしょう? だからあんな呼び出しを    して。

直斗  何のことだ。

遼介  とぼけるのもいい加減にしたらどうです? またそうやって。どうせそれもフェ    イクなんでしょう?

直斗  俺にはわからない。

遼介  署内に裏切り者がいるという情報があったんです。香山さんは直斗さんが怪しい    とみていたようですが。

直斗  違うのか? だから俺を逃がそうとして。

遼介  直斗さん。裏切り者は……俺です。

直斗  なんだって……

遼介  裏切り者は……俺です。

直斗  それは俺のことをかばって言ってるんだよな。

遼介  違いますよ。ホントに裏切ってたんです。それと――

直斗  ?

遼介  俺が警察官になったのは、大切な人を守ることです。姉さんのために死んで下さ    い。

直斗  瑞稀のため? どういうことだ!

遼介  直斗さんは知らなくていいです。ただ、姉さんのために死んでくれればいい!(振    り向く)

直斗  なんで、目をつぶって――。!!

     遼介頭上に向かって拳銃を撃つ。明かりが消える。

     直斗に向かって撃つ。腕をかする。

     直斗は逃げる。(去る)遼介追いかける。(去る)

     直斗逃げてくる。遼介追いかけてくる。

     直斗が足を撃たれ、転ぶ。

遼介  直斗さん。終わりです。

直斗  遼介……

     瑞稀、関やってくる。(二人とは違う場所。二人は舞台に残ったまま)

瑞稀  何? 今の音?

関   銃声です。急ぎましょう。

     瑞稀、関去る。

     直斗逃げようとするが動けない。遼介はじりじりと歩み寄る。

     遼介は直斗に銃口を向ける。引き金を引く。が、ジャムになり不発。

遼介  寿命が延びましたね。たった数秒ですが。

     遼介はジャムを直す。再び直斗に銃口を向ける。

直斗  遼介……。何故なんだ? 理由を教えてくれ。

遼介  往生際が悪いですね。直斗さんらしくもない。

直斗  俺が死ぬことが、何で瑞稀のためになる?

遼介  いつもの勘で何とかしてみればどうです?

直斗  ……

遼介  答えは?

直斗  誰の命令だ……

遼介  は?

直斗  誰の命令で動いてるんだ。

遼介  何言ってるんですか? 俺は姉さんのために、自分自信の確固たる意思決定であ    なたを殺すんです。

直斗  その割に、手が震えてるじゃないか。

遼介  !

直斗  射撃のうまいお前が、この距離で何発外した?

遼介  久しぶりに撃ったから。ただそれだけです。

直斗  お前の意思じゃない。そうだろ?

遼介  違う! 俺は直斗さんを殺すんです。そうじゃないと……

直斗  じゃないと、何だ?

     瑞稀、関やってくる。

瑞稀  遼介?

関   お前。直斗さんを撃ったのか!

遼介  関! 姉さんをつれて帰れ!

瑞稀  どういうこと?

遼介  直斗さんを殺さないといけないんだ。

関   直斗さんが裏切り者だからか!

遼介  違う。姉さんのためだ!

瑞稀  私のため? 私のためってどういうこと。止めてよ。直斗を撃ったりしないで。

関   直斗さんがしたことは罪かもしれない。けど!

遼介  だから違うって言ってんだろ!

直斗  命令したやつは誰なんだ?

遼介  俺は顔も知らない。

直斗  やっぱり、そうなのか。

遼介  くっ!

瑞稀  遼介! 銃を降ろして。

遼介  降ろすわけにはいかない!

直斗  誰かに脅されていたんだな。お前が昔の友達を助けるために強制捜査の情報を売    ったことを。

関   何のことですか?

遼介  どうして?

直斗  痛みのおかげか、思い出した。事故の時のことも、お前が何をしていたのかも。

関   まさか。裏切り者は遼介だったんですか!

直斗  俺はお前を逮捕するつもりはなかった。

遼介  じゃあ、あのときの呼び出しはなんだったんですか。

直斗  お前の背後にいるやつを突き止めたかった。

遼介  どこまで知ってたんですか?

直斗   そいつへ支払う、多額の口止め料を得るために、何度も賄賂を受け取っていたこ    と。

遼介  仕方なかったんですよ! そうでもしないと、金なんか手に入らなくて。

直斗  それじゃいつまで経っても終わらないんだ。そんな金の集め方をしたら、また脅    される為にやってるのと同じだ。

関   自分の身が、そんなに大事だったのか!

遼介  何も知らない奴は黙ってろ!

関   ……

直斗  それで、瑞稀のためか。

遼介  !

直斗  最初は警察への裏切り行為を脅迫されていた。でも、途中から内容が変わった。

遼介  ……

直斗  大方、言うとおりに実行しなければ、瑞稀の身の安全は保証しない。って所か。

関   なんですか、それ。

遼介  ……

関   遼介! なんでそんな脅しに負けたんだよ。

遼介  (歯ぎしり)

関   その強制捜査っていつのことだよ。お前はなんでそんなこと。

遼介  親友だったんだ。

関   だからって。

遼介  助けたかったんだ。

関   そんなことしたら、捜査員の苦労はどうなるんだよ。人生かけてたかもしれない    だろ。

直斗  その捜査。指揮をとっていたのは――。

遼介  もう遅いんですよ! 俺はもう戻れない所まで来てるんです。それに直斗さんを    殺さないと、姉さんが。

瑞稀  遼介! あんた、それでも警察官! 犯人に負けてどうするの!

遼介  毎日姉さんの写真が送りつけられてくるんだよ! いつでも始末出来る。そう言    われてるのと同じだった。

直斗  ……

遼介  だから、死んで下さい。(構え直す)

直斗  遼介。大切な人を守る。そのために警察官になったんだよな。お前が人を殺して、    瑞稀が悲しむとは思わないのか?

遼介  だとしても、姉さんが生きていれば。俺自身はどうなってもいい!

関   やめろ!

     遼介は直斗に向かって発砲。しかし、弾は当たらず、逸れる。

     しばらく沈黙。

     香山やってくる。

香山  なんだ今の音は! 坂井? 死んだのか。

関   香山さん、どうして。

香山  お前たちに任せておくのは不安だったから俺も来たんだ。それにしても、死んで    終わりとはあっけなかったな。

直斗  俺は死んでないですよ。

香山  え?

直斗  まだ生きてます。

香山  そ、そうだったのか。

関   応援は呼んだんですか?

香山  いや。俺たちの手で捕まえるって言っただろ。

直斗  応援を呼んで困ることがあるんですか?

香山  逃げた本人が偉そうなことを言うなあ。

直斗  何の容疑で逮捕しようっていうんです?

香山  逮捕前に逃げたんだから、公務執行妨害で。

直斗  そんな馬鹿な。

香山  どんなことだっていいんだ。そうだろ。

直斗  俺を消したいんですか。

香山  何の話だ。俺は裏切り者を逮捕出来ればそれでいい。

直斗  全部思い出したんですよ。

香山  そのようだな。えらく強気な発言。坂井の特徴だ。

直斗  遼介を苦しめていたのは、香山さんですね。

香山  何を馬鹿な。

関   香山さん。ここに来た時、何で直斗さんが死んだのかなんて言ったんです?

香山  死んでるみたいに倒れてるからだ。その姿をみたら、死んでるのかもって期待す    るだろ!

関   え?

香山  全く、お前って奴は恐ろしいな。

直斗  捜査を妨害されたことを根に持ってるんですか?

香山  それだけじゃないさ。俺はお前のことも嫌いだったんだ。

直斗  初耳です。

香山  捜査の基本はなんだか知ってるか? 足だ。足を使うんだよ。地道に捜査をして、    怪しい奴を見つけたら発破をかける。それが俺のやり方だ。なのに、俺に指図ば    かりしやがって。

直斗  香山さんのやり方は強引過ぎるんです。たいした証拠もないのに、何時間も被疑    者を取り調べしたり、令状もなしに家宅捜索をしたり。

香山  そうでもしなきゃ、犯罪者は捕まらないんだよ。

直斗  だから、俺を消そうと。

香山  はああ。なんでバレちまったのかな、遼介。

遼介  う……うそですよね。

香山  あん?

遼介  香山さんが、俺を脅していたなんて。

香山  うそだよ。坂井のうそだ。だからお前は大人しく坂井を殺せばいいんだ。

遼介  香山さん……

瑞稀  なんでそんなひどいことを!

香山  俺は当然のことをしただけだ。

瑞稀  お金を受け取っておいて、何が当然なの!

香山  お金をもらうことは悪いことじゃない。あんただって絵本を書いて、金をもらっ    てるんだろ。

瑞稀  私はたくさんの人に読んでもらいたいだけで……

香山  きれいごとだな。ホントは金が欲しいだけなんだろ。

瑞稀  違う!

直斗  瑞稀、聞くんじゃない。

香山  今度じっくり読んでおくよ。

瑞稀  あなたみたいな、心の汚れた人に読んで欲しくない。

香山  遼介も汚れた人間の一人だよ。

遼介  香山さん……。あのことで俺を恨んで。

香山  当然の罰を与えた所だ。まだ途中だが。

遼介  あいつが何をしたんですか?

香山  お前が逃がそうとしたやつは、最近走り屋とつるみだしたんだよな。

遼介  何度もやめろって説得したんです。でも。

香山  やつは何もしてなかった。ただの雑用をしていた。でもな、やつらの上はとんで    もないことをしでかしてるんだよ。走り屋はゴミでしかない。

直斗  ひき逃げですか。

香山  はぁ? 殺人だよ! 車で人にぶつかる行為はそうは呼ばない。

直斗  被害者はどんな人だったんです?

香山  検問をしていた警察官だ。

直斗  同僚を殺された恨みですか。

香山  同僚なんかじゃない! 俺に警察官としての魂を教えてくれた人だ。

直斗  香山さんの大切な人だったんですね。

香山  俺がここまで警察でいられたのも、あの人のおかげだ。だから、俺はちゃんと罰    を与えたよ。

関   香山さん?

香山  車での接触事故の場合、三日が勝負って知ってるか?

関   証拠がなくなる恐れがある。交通課のやつが言ってました。

香山  その言葉はホントだったよ。俺は交通課と連携して、走り屋の野郎を見つけたよ。    けど、証拠がなかった。

直斗  車があれば、証言などでなんとかなるんじゃ。

香山  車なんてどこにもなかったさ! 事件発生から三ヶ月経っていた。あいつはとっ    くに車を処分していたよ。

直斗  ……

香山  利口なやつだったよ。けど、車を避けるほど体は鍛えてなかったみたいだ。

直斗  香山さん。まさか。

香山  あの人の苦しみを味あわせてやったよ。俺の車を見つけてから、三秒くらいは     時間あったのに、あいつったらどうしたと思う? 逃げずに腰抜かしたんだぜ。

    はっはっはっは!

直斗  そいつを殺したんですか。

香山  当然だろ。日本の法律じゃあいつに罰を与えられない。

直斗  そんなやり方はダメなんです。

香山  お前はわかってない。日本の腐った法律のせいで、苦しんだ被害者は大勢いる。    だから俺はどんな手を使ってでも、犯罪者には罰を与える!

直斗  香山さんだって同じですよ。

香山  何?

直斗  香山さんだって、そいつと同じですよ。

香山  何がだ。

直斗  それじゃあ犯罪者なんですよ。香山さんも。

香山  お前はホントにきれい事ばかり言うな。お前が同じことをされて、俺と同じこと    をしようと思わないって言えるのか!

直斗  警察官がそんなことしていいって教えてもらったんですか!

香山   口で言ってもわからないみたいだな!

直斗  わかりたくもない!

香山  遼介。

遼介  はい。

香山  お前が逃がしたあいつ。必ず捕まえて刑務所に送ってやるからな。でも、その前    に――。

遼介  何ですか。

香山  お前、俺と約束したよな。坂井を殺すって。

遼介  は、はい。

香山  でも坂井は生きてるぞ。

遼介  そ、それは。

香山  約束は守らないとダメだ。

遼介  ……

香山  安心しろ。俺はしっかり約束を守る男だ。

直斗  遼介! 瑞稀を!

     瑞稀動けない。香山は瑞稀に銃口を向ける。

     遼介は瑞稀の前に飛び出し、盾になる。香山に銃口を向ける。

     香山、遼介発砲。両者着弾。倒れる。

瑞稀  う、うそ……

関   遼介……

直斗  関! 香山さんを取り押さえろ!

関   はい!

     関は香山に手錠をかける。香山は防弾チョッキを着ていたため、気絶している     だけ。遼介は何も漬けていなかったので、生身に当たる。

関   香山さんは防弾チョッキを着ていたので、無事です。

瑞稀  遼介!

遼介  ね……えさん。

直斗  遼介。

遼介  なおとさん。おれ……

直斗  喋るな。

遼介  ちゃんと大切な人守りましたよ。

直斗  ああ、そうだな。ありがとう。

遼介  おれ、かっこいいですか?

直斗  ああ。

遼介  よかった。

瑞稀  遼介、無理に喋らないで。

遼介  なおとさんに、勝ちました。

直斗  そうだな。

遼介  俺の方がかっこいいです。

直斗  ああ。

遼介  忘年会……

直斗  忘年会? 忘年会がどうした?

遼介  途中で抜けてきたから、歌えませんでした。

直斗  またやればいい。

遼介  直斗さんの歌。へたくそだったな……。(体の力が抜ける)

瑞稀  遼介?

直斗  おい。何とかとか言えよ。おい!

瑞稀  寝たふりしてるの?

直斗  何か言えよ!

関   直斗さん。(首を振る)

直斗  うそだろ……。おい! 目を覚ませよ。お前はまだやらなきゃいけないことがた    くさんあるんだぞ。起きろよ。なあ。大切な人を守るっていうのはそういうこと    じゃないんだぞ。自分も相手の命も守って、初めて意味がある。それなのに、お    前は。

瑞稀  遼介。遼介……。遼介ーーー!!!

     舞台照明落とす。

     舞台上の役者全員去る。

16 「ぼくときみ」

     彩花やってくる。

     絵本を読み始める。

彩花  みぃちゃんは、毎日「ぼく」と名乗る男の子と遊んでいました。鬼ごっこをした    り、おままごとをしたり。でも、ある日を境に、男の子はいなくなってしまいま    した。みぃちゃんはお母さんにどうして遊びにきてくれないのか聞きました。す    るとお母さんは、「男の子はみぃちゃんの心の中でお昼寝してるんだよ」と教え    てくれました。みぃちゃんはお話したいと言いましたが、お母さんは「それは出    来ないことなのよ」と言います。どうしても話したいのとみぃちゃんがお願いし    ても、お母さんはいじわるなことばかり言います。

     直斗、瑞稀やってくる。

直斗  あいつは立派な警察官だった。

瑞稀  そうだね。

直斗  他の人がなんて言っても、俺はそう思う。

瑞稀  私も。私の自慢の弟。

彩花  怒ったみぃちゃんはうちから飛び出し、疲れて動けなくなるまで走り続けました。    原っぱで座っていると、風が吹いてきました。とても暖かい風で、みぃちゃんは    疲れていることを忘れてしまいました。そして、風が話しかけてきたのです。「み    ぃちゃん遊ぼ」みぃちゃんは、それが「ぼく」であることがすぐにわかりました。    やっぱりお母さんはいじわるなことを言っていた。「ぼく」は風になったんだと    みぃちゃんは思いました――

     関やってくる。空を見上げる。(↑これを読んでいる間に)

彩花  ふう。疲れんな。絵本読むのって。どう? 面白かった? あれ? どこ行った    んだ。あいつ。

     彩花去る。

     顔に包帯を巻いた男がやってくる。

     彩花やってくる。

彩花  おい、そこのミイラ男。どこ行くんだ?

     男逃げ出す。

     彩花追いかけ、捕まえる。

彩花  ほら、帰るぞ。(顔の包帯とる)

遼介  ケガ人なんだから、優しく扱って下さいよ。

彩花  なんだと犯罪者。

遼介  ……

彩花  何か言い返してみろよ。

遼介  ……

彩花  屋敷の裏に普通の一般道が通ってて、近くに病院があったからいいももの、無茶    ばっかりしやがる。

遼介  はい。

彩花  おまけにお兄ちゃんを撃つし?

遼介  ……

彩花  これは、言わなくてもよかったか。ほら、行くぞ。

遼介  俺は頑張って罪を償ってきます。

彩花  がんばれよ。娑婆の空気はいつまでお預けかな~。

遼介  戻ってきたら、人のためになる仕事につきたいです。

彩花  ふうん。

遼介  警察官にはなれないけど、俺は「大切な人を守る。」そんな仕事がしたいです。

彩花  ボディーガードでもやれば?

遼介  それはいいですね。

彩花  早く帰ってこいよ。

遼介  はい。

彩花  早く帰ってこれたら、私が雇ってあげるよ。

遼介  お願いします。

彩花  面接でもやる? あなたがこの仕事を希望した理由はなんですか?

[遼介 直斗]  大切な人を守るためです。

おわり