【ショートショート】腸内バイパス 【web小説】

毎日同じ道を走っていると退屈する。

ルーティーンワークに刺激を求めることが間違っているのは、わかっている。

でも、違うことをする喜びがあってもいいはずだ。

 

「いいから、走れよ」

 

隣を走っている相棒から小言を言われる。

どうやら、心ここにあらずなことがバレているようだ。

 

「わかったよ」

 

俺は一言だけ告げて、前を向いた。

 

「大腸菌の仕事を舐めるなよ。お前は言われたことだけやっていればいいんだ」

 

相棒が忠告をしてくる。

大腸菌としてのあり方なんてものを、つらつらと語ってくる。

 

「同じ道を走って、道に落ちている食べかすを集める。それだけいいんだ」

 

それもわかっている。

道に放っておいたら、悪玉菌がやってきてしまうからだ。

俺たちの縄張りを荒らすやつらは許してはいけない。

 

「別の道を見つけたら、どうする? 俺は新しい道に行ってみたいが」

 

「おいおい、やめておけ。何があるかわからないんだぞ。同じことだけやっていればいいんだ」

 

「でもなーーー」

 

言いかけたところで、見たことのない看板が見える。

華やかで目を引くものだった。

俺は立ち止まり、看板を凝視した。

 

『新ルートで毎日のルーティーンを変えてみませんか?

 

今なら無料で新ルートが通れます。面倒な手続きは一切不要で、料金所もありません』

 

俺の足は、看板のある道の先を向いた。

 

「まてまて。どこいくんだ」

 

「いや、この新ルートに」

 

「やめとけって。いつもと同じでいいじゃないか」

 

「俺はつまらないルーティーンに飽き飽きしていたんだ。この道を進む」

 

「そうかい。じゃあ勝手にしな。俺は止めたからな」

 

「ああ、今まで世話になったな。ビフィズス菌総本部にはよろしく言っておいてくれ」

 

相棒は俺の肩をとんとんと叩いて、いつもの道へ行ってしまった。

 

『さあ、あなたも踏み出してみましょう。新天地には不安がつきものです。

 

でも、大丈夫です。私たちの仲間になれば、毎日が楽しくなりますよ』

 

看板には俺の背中を押す言葉が並べてあった。

俺の心は高まった。

 

「よし、つまらないルーティーンはかっ飛ばして、新天地へ向かうぞ」

 

毎日毎日同じことの繰り返し。走っているだけで、変化がない。

どうせ走るんだったら、違う道も試してみたいと思うのが普通じゃないか。

新天地を目指したコロンブスが悪いだなんて言わせない。

言わせてなるものか。

俺は新しい道を行くんだ。

 

走り続けて3時間が経った頃、周りの様子がおかしいことに気が付いた。

景色がいつまでも同じなのだ。

新しい道だからと、気にしないようにしたが、3時間も同じだとさすがにおかしい。

来た道を戻ろうと振り返った。

道はどこにもなかった。

もっというと、俺の足もなかった。

 

「え、なんで俺の足がないんだ?」

 

俺はようやく気づいた。

これは悪玉菌の罠だ。

 

「あ、あああああああああ!!」

 

突然の足の消失で正気を保っていられなかった。
痛みがないのがせめてもの救いか。

 

「くそ、悪玉菌の罠か!

あの看板は新天地への誘惑と見せかけた、

リンパ球への誘いだったのか!!」

 

免疫細胞の中でも最も強力なリンパ球。

彼らはがん細胞を攻撃する最精鋭のチームだ。

どうやら俺は、

悪玉菌が作ったバイパスを通ったことで

「がん細胞」と見なされてしまったようだ。

 

「ああ、」

 

消えゆく意識の中で思った。

 

「知識のないビフィズス菌は、悪玉菌に搾取される運命なのか」

 

俺はこの世から消え去った。

 

Fin

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